家を建てるとき、
「老後の介護」まで具体的に想定して設計する人は、実はほとんどいません。
多くの方が、
- 駐車スペースの確保
- 居室の広さ
- 収納の多さ
を優先し、
「階段ぐらい大丈夫」
「まだまだ先の話」
と考えてしまいます。
しかし、私はケアマネージャーとして20年以上、在宅介護の現場に関わる中で、
住環境ひとつで、老後の生活と家族の人生が大きく変わる現実を何度も見てきました。
なかでも、**影響が圧倒的に大きいのが「階段のある家」**です。
この記事では、
- なぜ階段のある家が老後に深刻な問題を生むのか
- 実際の介護現場で起きているリアルな事例
- 後悔しない住宅選びのポイント
を、現場目線で正直にお伝えします。
地方都市に多い「2階居住」の住宅構造
地方都市では、
- 1階が駐車場(ピロティ)
- 2階が居住スペース
という住宅構造が非常に多く見られます。
若い頃は何の不自由もなく生活できますが、
高齢になった瞬間から、階段は「生活の壁」になります。
「上がれない」「降りられない」
この状態になると、生活の質も、介護の選択肢も一気に狭まります。
要介護2前後から急増する「階段問題」
介護の現場で見ていると、要介護2前後から、
- 歩行が不安定になる
- 杖や歩行器が必要になる
- 転倒リスクが一気に高まる
- 階段昇降が困難になる
という状態になる方が急増します。
この段階で2階に居住スペースがあると、
生活と介護の両面で、深刻な支障が出てきます。
階段が使えないと、何が困るのか?
① デイサービスが利用できなくなる
デイサービスは、
- 入浴
- 食事
- リハビリ
- 見守り
- 家族の介護負担軽減
を、1日6〜8時間まとめて提供してくれる、在宅介護の要となるサービスです。
しかし、
1階まで降りられない
→ 送迎車に乗れない
→ デイサービスが利用できない
というケースは、現場では決して珍しくありません。
その結果、訪問サービス中心の生活となり、
介護量が圧倒的に不足してしまいます。
② 通院が困難になる
階段が使えないことで、
- 定期受診
- 検査
- 急な体調不良時の受診
すべてが大きな負担になります。
結果として、訪問診療へ切り替えざるを得なくなるケースも増えてきます。
③ 訪問サービスだけでは介護量が足りない
訪問介護・訪問看護・訪問リハビリは、
1回30分〜1時間が基本です。
デイサービスのように、
1日6〜8時間支援してくれるサービスは存在しません。
そのため、
- 家族の介護負担が激増
- 自己負担額が増加
- 介護疲れによる共倒れリスク
が一気に高まります。
階段のある住宅で介護が始まったときの現実的な解決策

固定式階段昇降機(工事型)
- 介護保険適用外
- 費用:50万〜100万円以上
- 賃貸では設置不可が多い
➡ 現実的な導入はかなり困難
可動式階段昇降機
- 介護保険レンタル可能
- 家族が講習を受講する必要あり
- 階段形状・天候に大きな制約あり
➡ 一般家庭での安定運用は非常に難しい
ホームエレベーター
- 介護保険:適用外
- 費用:200万〜500万円以上(工事費含む)
- 設置条件:戸建て持ち家が前提/賃貸は原則不可
- 工期:1〜2週間以上(構造補強が必要な場合あり)
➡ 導入できれば効果は非常に高いが、費用面・住宅条件のハードルが高く、誰でも簡単に選べる選択肢ではない
実際にあったケース①|階段が使えず、家族介護が限界に近づいた事例
転倒と骨折を繰り返し、
介助があっても階段昇降ができなくなった方のケースです。
以前は何とかデイサービスを利用できていましたが、
階段が使えなくなったことで、デイサービス利用が完全に不可能となりました。
現在の介護体制
- 訪問リハビリ
- 訪問診療
ヘルパーの利用は、本人の強い拒否があり導入できず、
別居の娘さんが毎朝通い、入浴介助・おむつ交換・身の回りの世話を行っています。
仕事をしながらの毎日の介護は、
身体的にも精神的にも限界に近い状態です。
認知症による転倒リスク
この方は認知症もあり、
- 歩行できないのに立ち上がろうとする
- ベッドから無理に降りようとする
ため、常に転倒リスクが高く、目が離せない状況が続いています。
要介護2という現実
この方の介護度は要介護2です。
特別養護老人ホームの入居要件は、原則要介護3以上。
「要介護2=軽い」と思われがちですが、
住環境次第で、介護負担は何倍にも膨れ上がります。
実際にあったケース②|30段の外階段が生活を制限した事例
自宅玄関まで約30段の外階段がある住宅のケースです。
この階段のため、
- デイサービス利用が困難
- 外出機会が激減
- 家族介助の危険性が増大
という問題が生じました。
可動式階段昇降機を介護保険レンタルで導入し、
家族が講習を受けて操作できるようになりましたが、
- 雨天時は使用不可
- 濡れた階段で滑落リスク増大
- 操作年齢制限(原則70歳以下)
など、制約だらけの利用となりました。
実際に会ったケース③|ホームエレベーターが支えた在宅介護
一方で、将来を見越してホームエレベーターを設置していた方の事例もあります。
この方は最終的に要介護5となりましたが、
- デイサービス利用
- 通院
- 外出
- 家族との日常生活
を、最後の時期まで継続できました。
階段介助が不要なことで、
- 転倒リスクが大幅に低下
- 家族の身体的負担が軽減
- 精神的な余裕が確保
され、理想的な在宅介護が実現したケースでした。
ケアマネとして、どうしても伝えたい本音
正直に言います。
「階段のある家」は、老後の選択肢を大きく狭めます。」
これは机上の理論ではなく、
20年以上の現場経験から断言できる事実です。
老後を見据えた住宅選びのポイント
① 生活は1階完結型が理想
- 寝室
- トイレ
- 浴室
- キッチン
すべて1階で完結できる間取りが理想です。
② 賃貸ならエレベーター付き or 1階物件
- エレベーター付きマンション
- エレベーターがない場合は1階
- 段差の少ないバリアフリー設計
ここは、妥協しない方が後悔しません。
③ 元気な今こそ考える
介護が始まってから住環境を変えるのは、
- 体力的
- 精神的
- 金銭的
すべてにおいて、非常に大きな負担になります。
元気な今こそ、最大の備えができるタイミングです。
まとめ|住宅は「老後の生活インフラ」
家は「住めればいい」ものではありません。
老後の生活と介護を支える、最重要インフラです。
- 階段は本当に必要か?
- 将来、外出が無理なくできるか?
- 家族の負担はどうなるか?
ぜひ、10年後・20年後の自分と家族を想像して、住まいを見直してみてください。
このブログが、
誰かの**「後悔しない選択」**のきっかけになれば、
ケアマネージャーとして、これ以上うれしいことはありません。


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